がん治療中の疲労は「休めば治る」わけではない
がんの治療を受けているとき、多くの方が「とにかく身体がだるい」「何もする気が起きない」という感覚を経験します。これは単なる疲れではなく、がん関連疲労(Cancer-Related Fatigue:CRF)と呼ばれる症状です。
CRFは、がん自体や化学療法・放射線治療・ホルモン療法などの副作用として現れる慢性的な疲労感で、一般的な疲れと大きく異なるのは、十分な睡眠や休息をとっても回復しにくいという点です。「もっと休めばよくなるはず」と思って安静にしていても、疲労感が改善しないどころか悪化するケースもあります。
では、何が効果的なのか。現在の研究が一致して示すのは、適切な運動プログラムです。このページでは、CRFのメカニズムと、エビデンスに基づいた運動による対策について詳しく解説します。
なぜがん治療中に疲労が起きるのか──CRFのメカニズム
CRFが起きる原因は一つではなく、複数のメカニズムが複合的に絡み合っています。主なものを整理すると、以下のようになります。
炎症性サイトカインの増加:がん細胞や治療の影響で、体内にIL-6・TNF-αなどの炎症性物質が増加します。これらが脳の疲労感知センターに作用し、慢性的な倦怠感を引き起こします。
視床下部–下垂体–副腎軸(HPA軸)の乱れ:ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌パターンが崩れることで、エネルギー代謝のリズムが狂い、日中に強い疲労感が現れます。
筋肉量の低下(サルコペニア):化学療法や安静生活により筋肉が急速に失われます。筋肉は身体の「エネルギー貯蔵庫」でもあるため、筋量低下はそのまま疲労感の増大につながります。
貧血・栄養障害:化学療法による造血機能の低下や食欲不振による栄養不足も、疲労を悪化させます。
これらのメカニズムに対して、適切な運動は炎症を抑制し、筋肉量を維持し、HPA軸を正常化する方向に働きます。
運動がCRFに効く──5つの主要エビデンス
「がん治療中に運動して大丈夫なのか」という不安をお持ちの方も多いでしょう。しかし、現在の研究は適切な強度の運動は安全であり、CRFを有意に改善することを繰り返し示しています。
| 論文・出典 | 対象・サンプル数 | 介入内容 | 主な結果 |
|---|---|---|---|
| Mustian et al., JAMA Oncology, 2017 | がん患者4,000名超のメタ分析 | 有酸素運動・筋力トレーニング・心理療法 | 運動はCRF改善に最も効果的(薬物・心理療法より有意に優位) |
| Bower et al., Journal of Clinical Oncology, 2014 | 乳がん患者101名のRCT | 12週間のヨガプログラム(週2回) | 疲労スコア(FACIT-F)が有意改善。炎症マーカー(IL-6・TNF-α)も低下 |
| Courneya et al., New England Journal of Medicine, 2007 | 化学療法中乳がん患者242名 | 有酸素運動 vs 筋力運動 vs 対照 | 両運動群でCRF・QOL・筋力が有意改善。化学療法完遂率も向上 |
| Hiensch et al., British Journal of Sports Medicine, 2021 | 乳がんサバイバー357名のRCT | 18週間の有酸素+筋力複合トレーニング | 疲労スコアが対照群に比べ有意に低下。体力・筋力も改善 |
| Schmitz et al., Medicine & Science in Sports & Exercise, 2010 | 乳がんサバイバー295名のRCT | 13週間の筋力トレーニング(週2回) | 体脂肪率低下・筋力向上・リンパ浮腫リスク増加なし(安全性も確認) |
特に注目すべきはMustian et al.(2017)の大規模メタ分析で、4,000名以上のがん患者データを統合分析した結果、運動は薬物療法や心理療法よりもCRFの改善に効果的であることが示されています。これは医療者の間でも「運動ファースト」という考え方が広まりつつある根拠となっています。
CRF対策のための運動プログラム設計
「どんな運動を、どのくらいすればよいのか」──これが最も重要な実践的疑問です。がん治療中の運動は、健康な方のフィットネスとは異なる配慮が必要です。以下に、エビデンスに基づく週別プログラムの目安を示します。
| 週 | 有酸素運動 | 筋力トレーニング | 柔軟・呼吸 | ポイント |
|---|---|---|---|---|
| 1〜2週目 | ウォーキング10〜15分/日(低強度) | 自重スクワット10回×2セット | ストレッチ5分 | 身体の反応を確認。疲れたら即中断 |
| 3〜4週目 | ウォーキング20分/日 | チェアスクワット・壁プッシュアップ各15回×2 | 腹式呼吸5分 | 少しペースを上げても息切れしない程度 |
| 5〜8週目 | 速歩き or 自転車20〜30分(週3〜4回) | ダンベル(軽量)使用・上下肢各2種目×3セット | ヨガ・ストレッチ10分 | 強度は「ちょっとキツい」程度(Borg RPE 11〜13) |
| 9〜12週目 | 有酸素30分(週4〜5回) | 各部位2〜3種目×3セット(10〜12RM) | 呼吸+ストレッチ10分 | 体調に合わせて調整。治療日は強度を下げる |
大切なのは「治療中の身体状態に合わせて柔軟に調整すること」です。化学療法の翌日は強度を落とす、倦怠感が強い日はストレッチのみにするなど、固定したプログラムではなく体調を最優先にした調整が求められます。
運動する際の注意点──こんなときは運動を控えて
運動の効果は実証されていますが、すべての状況で安全というわけではありません。以下のような状態のときは、運動を控えるか、医療スタッフに相談してから行うことが重要です。
血球数が著しく低下している場合(好中球数500/μL未満、血小板数5万/μL未満など)は感染リスクや出血リスクが高まるため、激しい運動は避ける必要があります。また、38度以上の発熱、著しいめまいや息切れ、心臓への転移が疑われるケースも要注意です。
がん治療中の運動は、担当医・看護師・理学療法士・がん運動療法士などの専門家と連携しながら進めることが理想的です。自己判断で激しい運動をするのではなく、専門家の指導のもとで安全に継続することが、長期的な効果につながります。
CORTISのがん専門パーソナルトレーニング
CORTISでは、がん治療中・治療後の方を対象としたがん専門パーソナルトレーニングを提供しています。担当トレーナーはがん運動療法に精通しており、医療チームとの連携のもと、一人ひとりの体調・治療状況に合わせた安全なプログラムを設計します。
「疲れているから運動なんて無理」と思っていた方が、適切なプログラムで少しずつ体力を取り戻し、QOLが改善していく事例を多く経験してきました。一人で抱え込まずに、ぜひご相談ください。
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